自己紹介とAI時代のデジタル広告業界展望

自己紹介

森 大輔

フィードフォースベトナム 代表取締役

2021年末にフィードフォースベトナムを設立。ベトナムや国際市場で販路を拡大する企業の、デジタル広告およびEC(Shopee・TikTok Shop・Shopifyなど)の運用代行を行う。ブランド認知・売上向上のための戦略立案から実行までを一気通貫でサポート。ベトナム足掛け13年目。

01ベトナムデジタル広告業界の動向

ベトナムのデジタル広告業界は、Google・Meta・TikTok・Shopeeなどのグローバルプラットフォームの影響を強く受けています。そのため、AIに関しても、ベトナム独自の変化というより、海外で生まれた機能や広告メニューが少し遅れて入ってくる流れが多いです。

一方で、現場の業務レベルではすでに大きな変化があります。広告文作成・翻訳・資料作成・レポート要約・リサーチなどは、AIによってかなり効率化されています。

ベトナムでは、Google検索や自社サイトだけで購買が完結するよりも、Facebook・TikTok・Shopeeなどをまたいで情報収集や購買が行われるケースが多いです。そのため、日本で注目されているAIO(AI検索やAI回答の中で自社情報を表示させる取り組み)よりも、現時点ではソーシャルメディア・マーケットプレイス・広告運用・動画・ライブコマースへの対応が優先されやすいです。

また、生成AIは大量のデータを持つ企業ほど有利です。そのため、GoogleやMetaのような大手プラットフォームの存在感は、今後さらに強くなる可能性が高いです。一方で、ローカルの広告ネットワークや小規模な広告配信サービスは、相対的に選ばれにくくなるでしょう。

02AI導入状況

弊社では、Google WorkspaceのAI機能を中心に使っています。加えて、情報管理やセキュリティのルールを決めた上で、ChatGPTやClaudeなどの生成AIツールも業務に取り入れています。

💡 具体的な活用シーン

メールの下書き・議事録整理・資料作成のたたき台・広告文の案出し・翻訳・レビュー補助などで使っています。チーム共通のプロンプト・エージェントも用意し、誰が使っても一定の品質で作れるようにしています。

最近は、AIがGoogle Workspace・Slack・Notion・Shopify・Webflowなどの業務ツールとMCP(Model Context Protocol)経由で連携できるようになっています。そのため、画面を一つずつクリックして作業するのではなく、自然な文章でAIに指示して作業を進める場面も増えています。

また、Google Apps Scriptなどを使って、小さな業務自動化ツールを自作するメンバーも増えてきています。非エンジニアでもテクニカルな業務改善をしやすくなったことは、大きな変化です。

03実際に減った業務

AIによって減った業務は、リサーチ・翻訳・スライド作成・ドキュメント作成・広告文作成・広告画像のラフ案出し・議事録作成・レポート要約などです。

特に大きいのは、言語の壁が下がったことです。ベトナムの日系ビジネスでは、日本語・英語・ベトナム語が混在します。以前はネイティブに近い人でなければ難しかった文章作成や顧客対応も、AIの補助によって非ネイティブのメンバーでも対応しやすくなっています。

単純な作業時間は確実に減っています。一方で、人間に求められる役割は「作業」から「判断」「編集」「品質保証」に変わってきています。AIが作ったものをそのまま出すのではなく、それが正しいか、クライアントの状況に合っているか、売上につながるかを判断する力がより重要になっています。

04逆に増えた業務

一番増えたのは、AIが作ったもののレビューと品質保証です。AIは自然な文章を作るのが得意ですが、数字・日付・集計期間・出典・固有名詞を間違えることがあります。広告レポートや提案資料では、こうしたミスがそのままクライアントの不信感につながるため、人間による確認はむしろ重要になっています。

また、AIっぽい文章を自然な表現に直す作業も増えました。言い回しが少し大げさすぎる、Markdownのような書き方が残っている、といった点を修正する必要があります。これは細かい作業に見えますが、クライアントに出す資料やメールでは大切です。

さらに、社内でAIを安全に使うためのガイドライン作成やセキュリティ面の確認(自作ツールの安全性、スクレイピングの悪影響の有無、自動送信メールのスパム判定対策など)にも時間がかかっています。

もう一つ増えたのは、ジュニアメンバーへの教育です。以前は基礎業務を通じて自然にビジネスの理解を深めることができましたが、今はその入口業務をAIが代替しています。新人がどこで経験を積むのか、どうやってAIの出力を疑う力を身につけるのかが新しい課題になっています。

05AIでは代替できない部分

AIでは代替しにくいのは、相手の状況や感情を理解した上で判断する部分です。

たとえば、「このブランドのお客様は本当は何を求めているのか」「この商品はベトナム市場でどう見せるべきか」「今のクライアントに必要なのは広告運用なのか、商品ページや販売チャネルの改善なのか」といった判断は、AIだけでは難しいです。

広告文や画像案はAIでも作れます。しかし、誰に、どのタイミングで、どのような気持ちに寄り添って届けるべきかを考えるには、人間の観察力や経験が必要です。BtoB営業やクライアントマネジメントも、信頼関係が重要なため、完全には代替されにくいと思います。

さらに、AIを前提にしてビジネスモデルやサービス設計を変えることも、人間側に残る大きな仕事です。AIを単なる効率化ツールとして使うだけではなく、AIを使うことで会社としてどのような価値を提供できるのかを考える必要があります。

06今後3〜5年の予測

今後3〜5年で、ベトナムのデジタル広告業界の仕事は大きく再定義されると思います。ただし、単純に「AIによって雇用が一気に減る」とは考えていません。

ベトナムは人口が若く、デジタルへの適応も早い国です。しかし、有料AIツールに個人が継続的に課金する余力はまだ限られているため、ボトムアップで一気に普及するというよりは、企業側がルールやツールを整備し、業務の中にAIを組み込んでいく形が中心になると思います。

広告代理店に関しては、作業代行型の小規模代理店は厳しくなるでしょう。「安く早く作業します」という価値だけでは差別化が難しくなります。今後は、作業を代わりに行うことよりも、どの施策を優先すべきか、どのKPIを見るべきか、売上につながる仕組みをどう作るかを設計できることが重要になります。

個人的には、私は「質の高い雇用をベトナムで生むこと」を一つの目標としてベトナムに来ました。AIによって現場の作業を担う人材と、プロジェクトの設計・判断を担う人材の二極化が進む可能性がありますが、AIを使いこなすことで、より上流の仕事や、より付加価値の高い仕事をベトナムで生み出すことは可能だと思っています。

07必要になる人材像

これから必要になるのは、AIを使って自分の仕事の範囲を広げられる人材です。

ベトナムのデジタルマーケティング業界では、「データに強い人」と「クリエイティブに強い人」に分けて語られることがあります。ただ、今後はデータ集計も広告文作成もAIで効率化できるため、どちらか一方だけでは差別化が難しくなります。

必要なのは、広告の基礎を理解した上で、技術にも関心を持ち、プロジェクトの上流に関わろうとする姿勢です。AIの出力をそのまま信じるのではなく、前提や数字を疑い、クライアントの状況に合わせて判断できる人が求められます。AIに仕事を奪われないようにするのではなく、AIを使ってより大きな仕事を担う姿勢が大切だと思います。