2021年末にフィードフォースベトナムを設立。ベトナムや国際市場で販路を拡大する企業の、デジタル広告およびEC(Shopee・TikTok Shop・Shopifyなど)の運用代行を行う。ブランド認知・売上向上のための戦略立案から実行までを一気通貫でサポート。
ベトナムデジタル広告業界の動向
ベトナムのデジタル広告業界は、Google・Meta・TikTok・Shopeeなどのグローバルプラットフォームの影響を強く受けています。そのため、AIに関しても、ベトナム独自の変化というより、海外で生まれた機能や広告メニューが少し遅れて入ってくる流れが多いです。
一方で、現場の業務レベルではすでに大きな変化があります。広告文作成・翻訳・資料作成・レポート要約・リサーチなどは、AIによってかなり効率化されています。
また、生成AIは大量のデータを持つ企業ほど有利です。そのため、GoogleやMetaのような大手プラットフォームの存在感は、今後さらに強くなる可能性が高いです。一方で、ローカルの広告ネットワークや小規模な広告配信サービスは、相対的に選ばれにくくなるでしょう。
AI導入状況
弊社では、Google WorkspaceのAI機能を中心に使っています。加えて、情報管理やセキュリティのルールを決めた上で、ChatGPTやClaudeなどの生成AIツールも業務に取り入れています。
具体的には、メールの下書き・議事録整理・資料作成のたたき台・広告文の案出し・翻訳・レビュー補助などで使っています。チーム共通のプロンプト・エージェントも用意し、誰が使っても一定の品質で作れるようにしています。
最近は、AIがGoogle Workspace・Slack・Notion・Shopify・Webflowなどの業務ツールとMCP(Model Context Protocol)経由で連携できるようになっています。そのため、画面を一つずつクリックして作業するのではなく、自然な文章でAIに指示して作業を進める場面も増えています。
また、Google Apps Scriptなどを使って、小さな業務自動化ツールを自作するメンバーも増えてきています。非エンジニアでもテクニカルな業務改善をしやすくなったことは、大きな変化です。
実際に減った業務
AIによって減った業務は、リサーチ・翻訳・スライド作成・ドキュメント作成・広告文作成・広告画像のラフ案出し・議事録作成・レポート要約などです。
単純な作業時間は確実に減っています。一方で、人間に求められる役割は「作業」から「判断」「編集」「品質保証」に変わってきています。AIが作ったものをそのまま出すのではなく、それが正しいか、クライアントの状況に合っているか、売上につながるかを判断する力がより重要になっています。
逆に増えた業務
一番増えたのは、AIが作ったもののレビューと品質保証です。AIは自然な文章を作るのが得意ですが、数字・日付・集計期間・出典・固有名詞を間違えることがあります。広告レポートや提案資料では、こうしたミスがそのままクライアントの不信感につながるため、人間による確認はむしろ重要になっています。
また、AIっぽい文章(言い回しが大げさ、Markdown形式の残存など)を自然な表現に直す作業や、社内でAIを安全に使うためのガイドライン作成(情報入力規制、プロンプト管理ルール)にも時間がかかっています。
セキュリティ面では、自作自動化ツールの安全性確認、スクレイピングが相手サイトや自社ドメインに与える影響の精査、メール自動送信のスパム判定対策などの確認が増えています。
AIでは代替できない部分
AIでは代替しにくいのは、相手の状況や感情を理解した上で判断する部分です。
「このブランドのお客様は本当は何を求めているのか」「この商品はベトナム市場でどう見せるべきか」「今のクライアントに必要なのは広告運用なのか、商品ページや販売チャネルの改善なのか」といった判断は、AIだけでは難しいです。
広告文や画像案はAIでも作れます。しかし、誰に、どのタイミングで、どのような気持ちに寄り添って届けるべきかを考えるには、人間の観察力や経験が必要です。また、信頼関係が重要なBtoB営業やクライアントマネジメントも、完全には代替されにくいと考えます。
さらに、AIを前提にしてビジネスモデルやサービス設計を変えることも、人間側に残る大きな仕事です。単なる効率化ツールとして使うだけでなく、会社としてどのような新しい価値を提供できるかを定義する必要があります。
今後3〜5年の予測
今後3〜5年で、ベトナムのデジタル広告業界の仕事は大きく再定義されると思います。ただし、単純に「AIによって雇用が一気に減る」とは考えていません。
ベトナムは人口が若く、デジタルへの適応も早い国ですが、個人が有料AIツールに課金する余力はまだ限られています。そのため、ボトムアップで一気に普及するというよりは、企業側がツールとルールを整備し、業務の中にAIを組み込んでいく形が中心になるでしょう。
広告代理店に関しては、作業代行型の小規模代理店は厳しくなります。「安く早く作業します」という価値だけでは、AIを導入したクライアント自身が行う作業と差別化が難しくなるためです。今後は、どの施策を優先すべきか、どのKPIを見るべきか、売上につながる仕組みを設計できるかが重要になります。
必要になる人材像
これから必要になるのは、AIを使って自分の仕事の範囲を広げられる人材です。
ベトナムのデジタルマーケティング業界では「データに強い人」「クリエイティブに強い人」に分けて語られがちですが、データ集計も広告文作成もAIで効率化できる今、どちらか一方だけでは差別化が難しくなります。
必要なのは、広告の基礎を理解した上で技術にも関心を持ち、プロジェクトの上流に関わろうとする姿勢です。AIの出力をそのまま信じるのではなく、前提や数字を疑い、クライアントの状況に合わせて判断できる人が求められます。
AIに仕事を奪われないようにするのではなく、AIを使ってより大きな仕事を担う姿勢が大切だと思います。

